剣城→拓人
「剣城・・・お前・・」
「あのなぁ、いくら俺でもこんなこと出来ないって。そもそも意味ありますか?こんなことして」
「・・・それもそうだな」
キャプテンの声が、暗闇の中むなしく響いた。
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こんなこと―――停電。
今現在、部室は真っ暗。そしてキャプテンと俺は二人きりだった。
何のことはない。一人残って部誌を書いていたキャプテンと、監視を名目にそれを見ていた俺。
部室の端でジロジロ見てくる俺に、キャプテンは不快感を露わにしていたけど、口では何も言ってこなかった。言っても無駄だと思ったのかもしれない。
そんな時、バチンといった音と一緒に、周囲の電源がすべて落ちた。
「え・・・停電?」
焦ったようにキャプテンが言い、続いてガコンガコンという音と一緒に「イタッ」だの「うわっ」声がする。どうやらキャプテンは暗闇の中、一直線にドアに向かってるらしい。
物を警戒してゆっくり行くとか、何かに沿って歩くとかしろよ。以外と大ざっぱだな、このヒト。
とにかく、壁に手を添えながら俺も自動ドアの所までたどりついた。
サッカー棟は完全な室内型施設、おかげで自動ドアも開かない始末。
どうやら、キャプテンは自動ドアを開けようとしているようだけど、固く閉じたそれは、全く動く気配がない。
そして先ほどの会話だ。
停電なんて起こして、一体俺に何のメリットがあるんだよ。
キャプテンと二人きりで真っ暗になって、しかもドアは開かない状態で・・・。
真っ暗な中、キャプテンと二人きり。
扉も開かない。
一瞬、バカな事を考えかけて、慌てて思考を止めた。
「チョロチョロ動き回ると、また何かにぶつかりますよ。ほら、ここ座って」
キャプテンの腕をつかんで、壁に沿って座らせる。
隣に腰を下ろすと、横から衣擦れの音が聞こえた。少し離れたのだと気配で分かった。
いや、わかるけど。普段の行いとか考えたら、避けられるの仕方ないと思うけど。
それ地味に傷つくんですが!!
気に食わないので、わざと距離を積めてみた。最初よりもさらに近くに。
少しでも動くと、触れてしまいそうなくらい近く。
肘がぶつかったとたん、隣にいたキャプテンが身体ごと大げさにビクリとふるえたのがわかった。
あぁ、うん。まぁそうだよな。自分のしてきたことを考えれば、その反応も仕方ない。
サッカー部を潰すために色々したし、その手段はやや乱暴だったと自覚もある。
けど、こんな暗闇の中、しかも停電中って状態で、いくら俺でも無体な真似はしないっつーの。
キャプテンが再び俺から距離を取ろうとしているのが分かったので、その前に口を開く。
「俺、暗いところ駄目なんですよね」
「えっ」
嘘だけど。
「それから、こういった閉鎖された空間って苦手で。息苦しくなる」
もちろんこれも嘘。
ま、テキトーに言ってみただけだから、そう簡単には信じな・・・
「・・・・・・そうなのか」
・・・信じた。
キャプテンはそう呟くと、もう俺から離れようとはしなかった。
それどころか、手探りで俺の手を探し出し、そっと自分の手を重ねてきた。
いや、閉所恐怖症(嘘なんだけど)のオレを安心させるための行動だってのは分かる。
分かってはいるが、でもこれは。
向こうから手を繋いできたんだし、握り返すくらいしたっていいよな!
手のひらを会わせ、指を絡めるようにして握る。
キャプテンの手は、一瞬戸惑うようにピクリと震えたけど、俺の手を振り払いはしなかった。
キュッと指先に力を入れると、弱々しくではあるが、握り返してきた。
手を繋いだままなのが気まずいのか、キャプテンは「学校には慣れたか?」「友達は?」といった無難な会話をしてくる。
それに「はい」とか「まぁそれなりに」とか答えながら、俺もキャプテンに問いかけてみた。気になっていたことを、何でもない風を装って。
「キャプテンと霧野先輩って、仲いいですよね」
「幼馴染だからな」
知ってる。
恐ろしく過保護な幼なじみ。端から見ても、特別な関係だと分かるくらいの、仲の良さ。
「幼馴染ってだけで、あんなに一心同体になれるもんですか?」
「それを言うなら『以心伝心』だ、バカ」
「・・・悪かったですね、バカで」
俺がふてくされてそう言うと、隣からくすり、と声がした。
笑っているのだろうか。俺との会話で?
信じられない。でもきっとそうだ。だって、俺たちの間に流れる空気が、こんなにも自然で優しい。
オレはさらに距離をつめた。
服越しに、お互いの体温を感じるくらいに。
『近すぎだ』『離れろ』
覚悟していた罵声は飛んでこなかった。
その代わりに、肩に掛かる重み。頬に触れる、フワフワの髪の感触。
キャプテンが、俺に体重をかけるようにしてもたれ掛かっている。
あり得ない展開にドキドキしてきた。
思いがけずキャプテンと近づくことが出来て、停電も悪くないなと思う。
「静かですね」
「そうだな。・・・・・・・・あぁっ!!!」
キャプテンが唐突に、この世の終わりみたいな叫び声をあげた。
「キャプテン??」
「空調!止まってるんだ!!」
「へ・・・」
「停電で換気システムも止まってるんだ。だからこんなに静かなんだよっ!!!」
「はぁ。で?」
「分からないのか?酸素の供給が断たれたんだよ!!」
キャプテンは『霧野・・そうだ、ケータイ・・・』とぶつぶつ呟いたかと思うと、次にはあっさりと手を離し、立ち上がった。
いや、空調が止まったっていっても部室は広いんだし、それにいくら何でも今日中に電源は復活すると思うんだけど。酸素ってそんな大げさな。
「キャプテン」
「すっかりケータイのことを忘れてた!」
「ちょっと」
「とにかく、助けを呼ばないと」
ダメだ。全然人の話を聞く状態じゃねぇ。
思わず『静かですね』なんて言ってしまったことを後悔する。
くそ、ほんの数十秒前の自分を殴ってやりたいぜ。
「おい、無闇に動くと危な・・・」
言い終わらないうちに、向こうからガツンという鈍い音。
続いて短い悲鳴と、何かが倒れる音。
「人の話を聞けって!」
あわてて音のした方へ駆け寄る。
が。
考えてみたら――いや、わざわざ考えなくても、この暗闇の中でそんな行動をとれば、キャプテンの二の舞になることは分かり切っていることで。
足元にあった何かに躓いた。
ぶつかった感じからして机や何かじゃないのは確実で、悲鳴がした方に駆け付けたわけだからこの辺にキャプテンはいるわけで、っていうか躓いた瞬間「イタッ」とか聞こえたし、とするとこの下にキャプテンがいるのは確実で、かといって避けようにもこう暗くっちゃ全く避けようもないわけだし。
倒れる瞬間にこれだけのことを考えた自分の脳みそを、少しだけ見直した。
「剣城、重い・・・」
思ったよりも、声が近い。『重い』ってことは、この下にあるのはやっぱりキャプテンの身体だったりするわけだ。
一体、どういった体勢なんだ、俺たち。
「退くにしても、どんな体勢だか分からないから、ちょっと確認しますよ。大人しくしてて下さい」
そう言って手を伸ばした先に触れたのは、髪だった。
思っていた通り、フワフワしていて、触り心地がいい。
そのまま手を動かす。
多分今触れているのは額、それから・・・。
頬と思わしき所に触れた時、キャプテンが息を飲むのが分かった。
微かにふるえている。
そんなに俺が怖いのか。
それとも、触られるのが嫌なのか。
だけど・・・。
そんな捕捉された小動物みたいに怯えられたら・・・こっちはもっと追いつめたくなるってものだ。
「つ、剣城・・・」
あーあ、声まで震えちゃって。
例えば、このまま制服のボタンを外したらキャプテンはどうするだろう。
必死になって抵抗する?
大声で助けを呼ぶ?
どちらにしろ、きっと泣く。
暗闇の中で、泣き顔を見ることが出来ないのは残念だが。
学ランのボタンに手をかける。
ひとつ。
ふたつ。
それから、中に着ているワイシャツのボタンをゆっくり外していく。
その間、キャプテンは声を出すこともなかったし、ピクリとも動かなかった。。
恐怖で動けないのか。
それとも、自分が何をされようとしているのか、分かってないわけじゃないよな。まさか?
首筋から鎖骨へと、ゆっくりと指を移動させる。
直接触れるその肌は触り心地が良くて、暗闇の中、見えてもいないのにその様子をありありと想像できて、ひどく興奮した。
さらに下に移動しようとしていた手が、突然掴まれた。
それ以上は許さないというように、強い力だった。
抵抗する気か。
面白い。
掴まれた手はそのままに、俺はゆっくりとキャプテンに覆い被さり、その首筋に舌を這わせた。
予想外の出来事に、キャプテンの身体がビクリと震える。
俺の頭を引きはがそうと思ったんだろう、キャプテンは掴んでいた俺の手を離した。
が、そうはさせない。
反対にその手をとり、床に押さえつける。
その時だった。
起こった時と同じく唐突に、周囲の電源が復活した。
「おーい、大丈夫か?」
暢気な声。電源が回復した扉から現れたのは、円堂監督だった。
隣には、心配そうな表情をした、過保護の幼馴染。
二人が目にしたものといえば。
反射的に手は離したものの、キャプテンに馬乗りになっている俺。乱れたキャプテンの制服。
誰がどう見ても、襲っているいる図。
あぁ、こりゃ言い訳できねーわ。
「神童!!!」
霧野がすごい速さでこちらに走りよった。
身体ごとタックルするように突っ込んでくるのを、かろうじて避ける。
それくらいの反射神経は持っている。シードの名は伊達じゃない。
「剣城、貴様っ!!!」
「違うんだ、霧野」
今にも殴りかからんとする霧野を止めたのは、以外にもキャプテンだった。
「神童!お前コイツに・・・」
はっきりと言うのが憚られたのか、言葉を濁す霧野に対して、キャプテンはきっぱりと首を振って答えた。
「誤解だ。剣城は、暗闇の中で転んだオレを助けようとしたんだ」
おいおいおい。いくら何でも無理じゃないか、その言い訳。自分のカッコ見てみろよ。
「そうだよな、剣城」
けど、そう言うキャプテンの声は、否定することを許さない強さがあった。
「あ、あぁ」
曖昧に頷きながらキャプテンの方を見る。泣いてるかと思ったけど、そんなことはなかった。
それどころか、瞳が潤んだ様子もない。
少し意外だった。
剣城→拓人が分かりにくくてスミマセン。
片思いって素晴らしい!管理人様、このような素晴らしい企画を立ち上げて下さり、ありがとうございます。
そして、無駄に長いくせに分かりにくい感じになってしまい、申し訳ありませんでした。