| ここから始まる1 | |
部活終了後に日誌をつけるのは、拓人が部長に就任してから、ずっと続けていることだった。 それはこの4月から、サッカー部が事実上崩壊したといってもよい状態になっても変わらない。真面目すぎと霧野に言われるが、性分なのだ、今更変えられない。 だが、今日は少し様子が違う。 部員全員が帰宅した中、なぜか天馬だけが残っているのだ。 「天馬」 「はい?」 「お前、ここで何をやっているんだ?」 「キャプテンが終わるの待ってます」 「・・・・・・何で?」 「聞いてほしいことがあるんです」 よく分からないが、話があるらしい。 そういえば最近、天馬が意味ありげに拓人を見ていることが多々あった。 練習に付き合って欲しいとか、必殺技を見せて欲しいとかだろうか。 ドリブルやパスなど、確かに一人よりも相手がいた方が練習しやすい。西園と一緒にすればいいのにとは思うが、拓人は天馬の必殺技『そよ風ステップ』のきっかけにもなったことだし、色々と教えて欲しいことがあるのかもしれない。 もう少しかかるから待っていろと告げると、天馬は嬉しそうに笑って、拓人の隣に腰を掛けた。 サラサラと、拓人が部誌を書く音だけが聞こえる。 いつも騒がしい天馬が大人しいと、何だか調子が狂う。 とは言え、待たせてしまってるわけで、どうでも良い話を持ちかけるのもどうかと思い、拓人は部誌を書くことに集中する。 そんな時だった。 黙って部誌を書く拓人の手元を覗き込んでいた天馬が口を開いたのは。 「キャプテンの手って、キレイですよね」 「は???」 天馬の言葉に、拓人はちょっと引いた。 何言ってんの、コイツ。 「前にピアノ弾いてるのを見た時も思いました。なんてキレイに動くんだろうって」 「あ、あぁ。ありが・・とう・・・?」 一応、褒められていると思うので、拓人はお礼を言った。 だが次の瞬間、天馬は信じられない事を口にした。 「触ってもいいですか?」 「はぁ!!???」 良いとも駄目とも言わないうちから、天馬は拓人の手に触れてきた。 「天馬・・・」 「キャプテン、オレ・・・」 天馬に力が入り、キュッと手を握られる。 「キャプテンの事が、好きなんです」 「・・・・・・・・・は?」 「キャプテンが、好きです」 「あ、いや・・・」 「好きです、キャプテン!」 「ちょっ・・待っ・・・」 気が付けば、両手をガッシリと握られていた。 それに、距離もすごく近い。 「とりあえず、落ち着け!でもってこの手を離せ、天馬!!」 両手をとられているもんだから、バランスがうまく取れない。天馬から離れようと後ずさるが、もともと椅子の端に座っていたので、すぐに追い詰められてしまう。 「オレの話聞いてます?」 「聞いてる。っていうか、お前がオレの話を聞け!手を離せ!そしてこれ以上近づくな!!」 突然何を言い出すのか、このバカは。オレ男だし。好きってどういうことだ。あれか、恋愛感情?マジで?いやいやあり得ないだろオレ男だし。コイツ頭がおかしいんじゃないか。落ち着いて考えてみろよ天馬、男が男を好きとかありえないだろ。そしてオレも落ち着け。冷静になれ。天馬は何か勘違いしているに違いない。きっとそうだ。とにかくその間違いを訂正して説得してでもってこの手を離してもらってっていうか霧野助けて!! ものすごく混乱している拓人だった。 拓人を押し倒さんばかりの勢いで迫る天馬(ただ、二人とも椅子の端に座っているので、天馬が拓人を押し倒そうとした場合、二人とも椅子から転げ落ちることになってしまう。ので、勢いだけで本当に押し倒そうとはしていないだろう。たぶん)。 普段『神のタクト』などと呼ばれている拓人だったが、同性から告白されたことなどはもちろんないし、ましてや身の危険を感じるほど迫られたことなど皆無である。 もう手も足も出ないし、頭は混乱しきって打開策も思いつかず、いよいよ諦めて目を閉じようとしたその時だった。 助けは、来た。 「なんだ、お前達。まだ残っていたのか?」 円堂監督だった。 ゆったりした足取りで近づくと、二人の姿に目を止め、それから机の上に視線を移動させる。 「日誌か?真面目なのもいいけど、ほどほどにな」 ・・・おかしいでしょ、それ。 この光景見て何も思わないんですか? あなたの教え子達が、椅子の上で手を握り合っていますが。しかも片方は、半分涙目になってますが。 が、円堂は二人の様子に気に留めていないようだった。「暗くならないうちに帰れよ」なんてのほほんとして言う。 肝心の円堂監督が頼りにならないと悟った拓人は、円堂の登場によって一瞬気を抜いた天馬を突き飛ばし、日誌を円堂の胸元に叩きつけるようにして渡すと、そのまま後ろを振り返ることなく部室を後にしたのだった。 後には、拓人に去られて呆然とする二人が残された。 天馬に円堂が尋ねる。 「何かあったのか・・・?」 |
|
| [↑] | |