ここから始まる2


「・・・という訳で、キャプテンに告白したはいいけど、返事はもらえず、逃げられちゃいました」

「なるほど。そんな事があったのか」



 つい昨日のことだ。円堂が帰り際に部室棟の見回りをしていた時、ただならぬ雰囲気の天馬と神童がいたのは。
 何事かと問いただす前に、神童は部室を飛び出して行ってしうし、後に残された天馬も呆然と立ち尽くすのみだった。

 時間も遅かったし、その場はそれでお終いにしたのだが、今やサッカー部の中心人物ともいえる二人だ。
 二人がギクシャクしたままだと部の雰囲気にも関わってくるし、円堂は天馬を呼び止め、こうして事情を聴いている訳なのだが。



 時と場所が悪かった。



 時−部活開始前。
 場所−部室。



 そこには当然、他の部員がいた。

 そして当たり前だが、神童もいた。




天馬ぁーーー!!!



++++++++++++++++





 え、なに。天馬って神童が好きなの?マジで?告白??っていうか手を握ったって言ってるし。天馬が神童の手を!?部内って恋愛禁止じゃなかったっけ?え、それマネージャーと選手の話だろ。選手同士ならいいのか?いや、それ以前に男同士だし、問題外じゃね?それ偏見じゃない?でも男同士だよ?っていうか神童が天馬に神童が天馬に神童が天馬に・・・神童ーっ!!!

 部員たちの間で微妙な空気が流れる中(ちなみに、最後のは霧野の心の叫び)、真っ赤を通り越してすっかり青ざめてしまった拓人が、天馬と円堂の間に割って入る。

「てっ・・おま・・・な、に・・・(天馬。お前、円堂監督に何を言ってんだ)!!」

「大丈夫ですか、キャプテン」

 誰のせいだと思ってるんだよ!!

「とりあえず落ち着け、神童」

 これが落ち着いていられますかっ!



 天馬と円堂に宥められながら、椅子に座らされ、拓人は何とか息を整える。部員たちは少し離れたところから、遠目で見守っているし。

 え、なに。この雰囲気。
 それに当の天馬に宥められるとか、ものすっごく不本意なんですが。


「それでだな、神童」

 他の部員たちのドン引きした空気など、円堂は全く気にならないらしい。

「話を聞いたところ、天馬は決してふざけている訳じゃなくて、真剣にお前のことが好きらしいんだ」

「そうですか」

 知ってます。今聞きました。オレすぐそこにいたし。ていうか、部員全員聞いてました、今の話。

「頭から否定するんじゃなくて、少し考えてみたらどうだ?」




「はいっ!」

 そこで突然の挙手。

「よし、霧野」

 手を挙げたのは霧野だった。
 教師が授業中の生徒をあてるように、円堂が霧野の名を呼ぶ。

「神童の意思はどうなるんですか?」

「天馬の気持ちに応えてやれなんて言ってないよ。たださ、男同士だとか、学年が下だとか、そういうの抜きにして、天馬のことを一人の人間としてとらえてみたらって話で」




「はいっ」

 今度は浜野が手を挙げる。
 何だかんだと、皆ノリが良いな。

「うん、浜野」

「ちゅーか、カントク、それにしたって天馬に甘くないですか?」

「え〜、そうかぁ??天馬の話聞いてると、一生懸命で応援したくなるのかな?」



「はい」

 今度は三国さんだ。

「何だ、三国」

「天馬が真剣なのは分かったけど、えーと、天馬がどうして神童を好きになったのか分からないんですが」

「一目ぼれに近いです」

 答えたのは円堂ではなく天馬だった。

「剣城のボールからかばってくれた時から素敵な人だなって。でもはっきり好きだと自覚したのは、キャプテンがその後の試合で化身出した時です」

 あー、あの時。
 やっぱりね。
 まぁ、そうだろうとは思ったけど。

 そんな空気が、天馬の言葉を聞いた部員たちの間で流れた。
 その後の試合で化身を出したとき・・・つまり、拓人が天馬の前でポロポロと泣いた時だ。


「あんな風に目の前で泣かれたら、誰だってキュンvってなっちゃうよ。オレだってなるもん」

 え、監督その場にいなかったでしょ!?

 うんうん、と頷きながら話す円堂を、部員たちは胡乱な眼差しで見つめる。
 そしてそれを聞いた拓人は、円堂に食って掛かった。

「なりません!!オレそんなに泣いてませんから」

 否定する拓人に、畳み掛けるように円堂は言う。

「泣いてるよな。毎週。OPで」(『天までとどけっ!』)

「それを言ったら、円堂監督だって、毎週OPで泣いてたじゃないですか!!」(『マジで感謝!』)

「(おぉ、随分古い話を出してきたな!)でもオレ、あんなに可憐には泣いてなかったモン」

「泣いてない!可憐になんて泣いてない!!」

 ブンブンと首を振って、必死になっている拓人に、今度は天馬が声を掛けてきた。

「オレ、華麗に泣くキャプテンが大好きですよ」

「誰が華麗になんて泣くか!何キャラだ、オレ!!!

 お前は辞書で『可憐』と『華麗』の違いを調べてこい!と天馬に蹴りを入れ追い払い、拓人は円堂に向き直る。

「監督も。天馬を煽らないでください」

「え、俺煽ってたつもりないけど」

 アハハーなんて、適当に笑う円堂。

 もうダメだ。
 監督には何を言っても無駄だ。

 そう思った神童が、周囲に視線を向けると。



 初めて会ったときにあんなふうに泣かれたら仕方ないよな。
 その後も、事あるごとに、天馬の前ではらはらと涙を流してたりしたしな。
 でもって、復活した後のあの凛々しい拓人。
 もともと雷門サッカー部に憧れていたわけだし、その雷門サッカー部のキャプテンで、周囲からは神のタクトなんて呼ばれている拓人を、天馬が好きになってしまうのも、まぁ仕方のないことなのかな。

 と。
 そんな空気が部員たちの間に流れていて。

「いや、ないから!うっかり泣き顔見たからって、男が男を好きになるとか、おかしいし!」

 その空気を敏感に感じ取った拓人が、必死に周囲に訴えかけるが、すでに無駄な努力だった。
 みな口々に「まぁ頑張れ」だの「神童も大変だな」だの無責任な言葉を口にしつつ、すてに傍観を決め込むつもりだ。

 困ったときの神頼み、ならぬ困ったときの霧野である。
 頼りになる幼馴染にすがるような視線を向けると、霧野は拓人に、力強く頷いてみせた。
 そして。


「神童の涙をみて好きになったなんて、オレは認めないぜ」

 腕を組んで勝ち誇ったような表情を浮かべる霧野。

「神童の泣き顔なんて、オレは散々見慣れてるからな」

「えぇっ、そこっ!!???」

 さすが幼馴染。
 つか、そんな言い方だと、普段から泣いてるみたいに聞こえるだろうが!(いや、実際泣いてるんだけどね)

「いいなぁ、霧野先輩」

「全然よくない!!!」


 前途多難な拓人とサッカー部だ。


[↑]