最悪の二択



「キャプテン、部誌書き終わりました?」

「天馬」

「一緒に帰ってもいいですか?」

「・・・断ってもついて来るくせに」

「あはは」




「・・・好きにしろ」



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 皆の前で拓人が好きだと公言して以降、天馬はよくこうして、声を掛けてくるようになった。

 最初はもちろんと断っていたのだが、この1年、諦めは悪いししつこいし。
 何度断っても、あきもせず声を掛けてくるしついてくるしで、最近の拓人はもう諦めかけていた。


「今日の練習もキツかったですね。さすが雷門サッカー部」

「あぁ」

「速水先輩って足速いですよね。全然追いつけなかった」

「あぁ」

 とは言え、天馬と親しく会話しながら帰るつもりは、拓人にはない。
 適当に相槌を打つだけなのだが、それでも天馬は嬉しそうに笑顔を浮かべながら、話しかけるのをやめない。

「霧野先輩って見た目よりも厳しいですよね。ちょっと怖いっていうか・・・」

「・・・そうだな」

 天馬が拓人によからぬ想いを抱いていると知ってから、霧野は天馬を警戒しているらしい。
 まぁ、霧野にとって拓人は大切な幼馴染だし、気持ちは分からなくもない。

 ちなみに、霧野に外見の話は禁物なのだが、それをわざわざ天馬に教えてあげるつもりは、拓人にはない。








 意味のない、会話ともいえない会話を続けながら、気づけば河川敷まで来ていた。

「天馬」

「はい」

「いつまでついて来る気だ。もういい加減、離れろ」

「『好きにしろ』ってキャプテンが言ったんですよ」

 言った。
 確かに言ったけど。

「大体、何なんだお前。オレが断っても無視しても、無理矢理ついて来るし、強引だし」

「だってキャプテン、無理矢理とか強引に扱われたりとか、したいんでしょう?」

はぁ!!???何だそれ。変態か、オレは!!

 とんでもないことを言い出した天馬は、狼狽える拓人をよそに、さらにあり得ないことを言い出す。

「キャプテン、剣城のことが好きでしょ」

「なっ・・・そんな訳ないだろう」

「剣城のこと、好きなんじゃないですか」

 拓人は、天馬がなぜそんな事を言い出すのか分からなかった。

 剣城ははサッカー部をめちゃくちゃにした。
 圧倒的な力でもって、拓人の大切にしてきたものを踏みにじったのだ。
 そんな相手を、拓人が好きになるだなんて、どうして思うことができるのか。

 バカじゃないか、コイツ。

「あり得ない。あんな奴、好きじゃない」

 そう。名前を聞くだけだって不愉快だ。

「本当に?」

「しつこいな!」

 語気を強めて言うと、天馬が拓人の前に回り込んだ。

「なら、オレを好きになってください」

「何を言っているんだ」

 天馬が1歩踏み出す。
 その迫力に、後ろに下がりそうになったけど、ここで引いたら負けだと思った。
 足を踏みしめ、天馬を睨む。二人の距離が近くなり、天馬の瞳が拓人に近づく。

「剣城のこと好きじゃないならいいでしょう?オレの物になってください」

 天馬が何を言っているのかは分かるのに、その言葉の意味が理解できない。

「キャプテン。剣城のことは見ないで、オレの事だけみてください」

「天馬・・・」












 が。

「いやいやいや、ちょっと待て。おかしいだろ!!

「何がです??」

「なんでお前か剣城かの2択になってるんだ」

 何だその究極の選択。
 ついうっかり、拓人は自分はどちらが好きなのか、考え込んでしまうところだった。
 危なかった。

「いい加減にしろ!オレは剣城なんか好きじゃない!ついでに言うと、お前のことも好きじゃないからな!!」

 言ってから、ハッとする。
 目の前の天馬がひどく悲しそうな顔をしたからだ。


 言い過ぎただろうか。

 いや、でも。

 拓人は天馬をを大切な後輩だとは思っている。
 けどそれは、天馬が拓人に対して抱く『好き』という気持ちとは違うのだ。
 





「あの、すみませんでした、キャプテン」

 小さな声で、天馬が言う。

「何が?」

「なんか、メチャクチャなこと言って困らせて」

 いつものことだがな!!

 そう怒鳴りつけてやろうかと思ったが、目の前に立つ天馬は、いつもの元気はどこへやら。項垂れちゃってるし、拓人の方を見ようともしない。

「天馬・・・」

 名前を呼ぶと、ビクリと肩を震わす。
 ズルいじゃないか。こんな時ばっかりしおらしくなって。

「もういい、帰るぞ」

「え・・・」

「一緒に帰るんだろ。さっさとしないと置いていくぞ」

 拓人がこう言うと、天馬はみるみる笑顔になり、「はいっ!」と笑顔で返事をすると、拓人の隣に並ぶ。
 立ち直りが早すぎじゃないか。

 でもまぁ、『一緒に帰る』の言葉だけでこうも元気になるのなら、それでいいかと思う拓人だった。









 が、このすぐ後、仏心を起こしたことを、拓人は後悔することになる。




 二人並んでしばらく歩いていると。
 つんつん。
 隣を歩いている天馬が、拓人の袖を引っ張った。


「あの、キャプテン。忠告・・・と言うか、お願いがあります」

 拓人の顔を覗き込むようにして、天馬が言う。

「天馬?」

「剣城には近づかないで下さい」

「・・・・・・何言ってるんだ、お前」

 さっきと今とで、どうしてまた、その流れに会話を持っていこうとするのか。

「剣城がキャプテンのことをどう思っているかは分かりません。けど、剣城は危険です」

「剣城が危険な奴だってことくらい、言われなくても解っている」

「そうじゃなくて!剣城が力ずくでキャプテンのことをどうにかしようとしたら、キャプテン抵抗できますか?」

 ゴンッ!!(よろけた拓人が電柱にぶつかった音)

「あぁっ、キャプテン!頭ぶつけてましたけど、大丈夫ですか?」

「お前のほうこそ頭大丈夫か!?お前の思考回路どうなってんの?どうして剣城がオレをどうこうって話になるんだよ。誰もかれもが自分と同じだと思うなよ!」

「誰もかれもだなんて言ってません。剣城だけです」


 くらくらくら。

 自信満々で言い切る天馬に、目まいがしてきた。この目まいは、頭をぶつけたせいだけじゃない。
 誰かコイツを何とかして。

 やっぱり一緒に帰るとか言うんじゃなかった。
 もう二度と一緒には帰らない。もし天馬が勝手についてきても、ダッシュで逃げよう。うん、そうしよう。



 ズキズキ痛む頭を抱えながら、心に決める拓人だった。








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拓人受webアンソロジー企画、『愛だけが全て』様に投稿させていただきました。(『痛みをともなう予感』という題名です)
投稿作品の方が1話完結で、これよりちょっとだけシリアスな感じで、拓人一人称になってます。


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