| 最悪の二択 | |
「キャプテン、部誌書き終わりました?」 「天馬」 「一緒に帰ってもいいですか?」 「・・・断ってもついて来るくせに」 「あはは」 「・・・好きにしろ」 ++++++++++++++++ 皆の前で拓人が好きだと公言して以降、天馬はよくこうして、声を掛けてくるようになった。 最初はもちろんと断っていたのだが、この1年、諦めは悪いししつこいし。 何度断っても、あきもせず声を掛けてくるしついてくるしで、最近の拓人はもう諦めかけていた。 「今日の練習もキツかったですね。さすが雷門サッカー部」 「あぁ」 「速水先輩って足速いですよね。全然追いつけなかった」 「あぁ」 とは言え、天馬と親しく会話しながら帰るつもりは、拓人にはない。 適当に相槌を打つだけなのだが、それでも天馬は嬉しそうに笑顔を浮かべながら、話しかけるのをやめない。 「霧野先輩って見た目よりも厳しいですよね。ちょっと怖いっていうか・・・」 「・・・そうだな」 天馬が拓人によからぬ想いを抱いていると知ってから、霧野は天馬を警戒しているらしい。 まぁ、霧野にとって拓人は大切な幼馴染だし、気持ちは分からなくもない。 ちなみに、霧野に外見の話は禁物なのだが、それをわざわざ天馬に教えてあげるつもりは、拓人にはない。 意味のない、会話ともいえない会話を続けながら、気づけば河川敷まで来ていた。 「天馬」 「はい」 「いつまでついて来る気だ。もういい加減、離れろ」 「『好きにしろ』ってキャプテンが言ったんですよ」 言った。 確かに言ったけど。 「大体、何なんだお前。オレが断っても無視しても、無理矢理ついて来るし、強引だし」 「だってキャプテン、無理矢理とか強引に扱われたりとか、したいんでしょう?」 「はぁ!!???何だそれ。変態か、オレは!!」 とんでもないことを言い出した天馬は、狼狽える拓人をよそに、さらにあり得ないことを言い出す。 「キャプテン、剣城のことが好きでしょ」 「なっ・・・そんな訳ないだろう」 「剣城のこと、好きなんじゃないですか」 拓人は、天馬がなぜそんな事を言い出すのか分からなかった。 剣城ははサッカー部をめちゃくちゃにした。 圧倒的な力でもって、拓人の大切にしてきたものを踏みにじったのだ。 そんな相手を、拓人が好きになるだなんて、どうして思うことができるのか。 バカじゃないか、コイツ。 「あり得ない。あんな奴、好きじゃない」 そう。名前を聞くだけだって不愉快だ。 「本当に?」 「しつこいな!」 語気を強めて言うと、天馬が拓人の前に回り込んだ。 「なら、オレを好きになってください」 「何を言っているんだ」 天馬が1歩踏み出す。 その迫力に、後ろに下がりそうになったけど、ここで引いたら負けだと思った。 足を踏みしめ、天馬を睨む。二人の距離が近くなり、天馬の瞳が拓人に近づく。 「剣城のこと好きじゃないならいいでしょう?オレの物になってください」 天馬が何を言っているのかは分かるのに、その言葉の意味が理解できない。 「キャプテン。剣城のことは見ないで、オレの事だけみてください」 「天馬・・・」 が。 「いやいやいや、ちょっと待て。おかしいだろ!!」 「何がです??」 「なんでお前か剣城かの2択になってるんだ」 何だその究極の選択。 ついうっかり、拓人は自分はどちらが好きなのか、考え込んでしまうところだった。 危なかった。 「いい加減にしろ!オレは剣城なんか好きじゃない!ついでに言うと、お前のことも好きじゃないからな!!」 言ってから、ハッとする。 目の前の天馬がひどく悲しそうな顔をしたからだ。 言い過ぎただろうか。 いや、でも。 拓人は天馬をを大切な後輩だとは思っている。 けどそれは、天馬が拓人に対して抱く『好き』という気持ちとは違うのだ。 「あの、すみませんでした、キャプテン」 小さな声で、天馬が言う。 「何が?」 「なんか、メチャクチャなこと言って困らせて」 いつものことだがな!! そう怒鳴りつけてやろうかと思ったが、目の前に立つ天馬は、いつもの元気はどこへやら。項垂れちゃってるし、拓人の方を見ようともしない。 「天馬・・・」 名前を呼ぶと、ビクリと肩を震わす。 ズルいじゃないか。こんな時ばっかりしおらしくなって。 「もういい、帰るぞ」 「え・・・」 「一緒に帰るんだろ。さっさとしないと置いていくぞ」 拓人がこう言うと、天馬はみるみる笑顔になり、「はいっ!」と笑顔で返事をすると、拓人の隣に並ぶ。 立ち直りが早すぎじゃないか。 でもまぁ、『一緒に帰る』の言葉だけでこうも元気になるのなら、それでいいかと思う拓人だった。 が、このすぐ後、仏心を起こしたことを、拓人は後悔することになる。 二人並んでしばらく歩いていると。 つんつん。 隣を歩いている天馬が、拓人の袖を引っ張った。 「あの、キャプテン。忠告・・・と言うか、お願いがあります」 拓人の顔を覗き込むようにして、天馬が言う。 「天馬?」 「剣城には近づかないで下さい」 「・・・・・・何言ってるんだ、お前」 さっきと今とで、どうしてまた、その流れに会話を持っていこうとするのか。 「剣城がキャプテンのことをどう思っているかは分かりません。けど、剣城は危険です」 「剣城が危険な奴だってことくらい、言われなくても解っている」 「そうじゃなくて!剣城が力ずくでキャプテンのことをどうにかしようとしたら、キャプテン抵抗できますか?」 ゴンッ!!(よろけた拓人が電柱にぶつかった音) 「あぁっ、キャプテン!頭ぶつけてましたけど、大丈夫ですか?」 「お前のほうこそ頭大丈夫か!?お前の思考回路どうなってんの?どうして剣城がオレをどうこうって話になるんだよ。誰もかれもが自分と同じだと思うなよ!」 「誰もかれもだなんて言ってません。剣城だけです」 くらくらくら。 自信満々で言い切る天馬に、目まいがしてきた。この目まいは、頭をぶつけたせいだけじゃない。 誰かコイツを何とかして。 やっぱり一緒に帰るとか言うんじゃなかった。 もう二度と一緒には帰らない。もし天馬が勝手についてきても、ダッシュで逃げよう。うん、そうしよう。 ズキズキ痛む頭を抱えながら、心に決める拓人だった。 |
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++++++++++++++++ 拓人受webアンソロジー企画、『愛だけが全て』様に投稿させていただきました。(『痛みをともなう予感』という題名です) 投稿作品の方が1話完結で、これよりちょっとだけシリアスな感じで、拓人一人称になってます。 |
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