以外と皆、速水のことを見てます





『絵画展の招待券があるので、もし良かったら二人でいきませんか?』

 断られたらそれていいと思ったし、受け取ってから興味がないと行くのをやめたとしても別にいい。
 どうせタダ券だし。



 けど、速水が想像したようなことにはならなかった。

 差し出された招待券を目にした神童が、首を傾げる。

「あれ、これって速水の好きな画家じゃないか?」

「え、ええぇぇ!!???な・・・な・・・」

 なぜ知っているのですか、神童くん。

「図書室で、よくその画家の画集を見ているのを見かけたから」

 見られてた!!!

 図書室の本は、借りるとその都度履歴が残る。
 なのでそうちょくちょく借りるのも何となく憚られた速水は、たまに時間がある時に図書室に通い、画集を眺めていたのだ。
 だが、それを神童に見られていたなんて。

 サッカー少年のくせに、しょっちゅう図書室を利用するのってどうなんだ!?これだから真面目人間は!!!(自分もだけど)

「すごく真剣に見ていたから、邪魔したら悪いと思って声を掛けなかったんだが・・・なんかゴメン」

 なんか良く分からないけど(←そりゃ神童からしたらね)、一気にずーんと落ち込んでしまった速水に申し訳なく思い、一応謝る神童。

「いえ、神童くんは悪くないです。悪いのはオレですから」

 いや、別に速水も悪くはないのだが。
 最終的に『悪いのは自分』と結論付けるのは、ネガティブ思考速水の悪い癖だ。

「でも、好きな画家なのに、どうして招待券を譲ろうとしたんだ?」

 うわ、そこを聞いちゃいますか霧野くん。

「え・・えーと。一人で行くのも、行きにくいといいますか・・その・・・好きだけど、それほど好きではないというか、それに・・・絵に興味がない人を誘っても・・・」

 しどろもどろに話す速水を、あごに手を当てながらじっと見ている霧野。
 視線が痛い。

「速水」

 その霧野が、話を遮るようにして速水の名を呼んだ。

「はい・・・」

「もしかして、他に誘おうと思ったヤツがいるんじゃないか?」

「は?・・・え、えぇ!!???」

 なぜそれを!!???
 そう思ったものの、あまりに動揺しすぎたため言葉を発することも出来ず、金魚のように口をパクパクさせている速水に、霧野は畳み掛けるように言う。

「そいつを誘ってみて、もし断られたら、オレが一緒に行くよ」

 ・・・・・・意味が分かりません。

 霧野くんの言う『そいつ』って『速水が誘おうと思ったヤツ』って、え、浜野くん?浜野くんのことを言ってるんですか??なぜそれを。あなたエスパーですか。それともオレが読まれやすいだけ?霧野くんはまず先に浜野くんを誘って来いと、そうおっしゃるわけですか?そうなんですか?断られたら一緒に行ってくれるのはありがたいけど、でも霧野くんと二人ってそれはそれで気が重・・・いえ、嬉しいです。アリガトウゴザイマス(棒読み)。


 神童が霧野に「どういう事だ?」と尋ねていたが、霧野は「いいから」とだけ言って、神童の手を引き歩いていってしまう。


 どういうことなのか、むしろこっちが聞きたい。
 どうして霧野はあんなことを言ったのか。

 まるで。



 速水が本当は、浜野と行きたがっているのを知っているかのような口ぶりだった。


「気のせい・・・ですよね」

 去ってゆく後姿を見送りながら、ぽつりとつぶやく。







 そして放課後。
 部活の時間である。


 あれから速水は、ずっと悶々としていた。

 なぜ、霧野はあんなことを言ったのか。速水の気持ちに気付いているのだろうか?
 そして、妙な話の流れから、浜野を絵画展に誘わなければならなくなってしまった。
 (別に、霧野は『浜野を』とはっきり言ったわけではないので、馬鹿正直に浜野を誘わなくたってよいのだけど、速水はそれに気づいていない)

 あぁ、もういっそのこと、絵画展が今日とか明日で終わりとかで、時間切れになってしまえばよかったのに!!(ネガティブ思考)
 だが残念ながら、絵画展は今週の土曜日から開催される。まだ始まってもいないのだ。




 そして速水は、もう一つ大事なことに気付いていなかった。

 練習が始まる前から、いや、もっと言ってしまえば、チケットをもらってからずっと考え込んでいて態度がおかしかった速水の様子に、浜野が気が付かないわけがないということに。
 そして「なんて言って誘えば。いや、誘ってもきっと断られるに決まっています。ならいっそ誘わない方が・・・あー、でも霧野君が。そもそも霧野くんはなんであんな・・・」とぶつぶつ独り言を呟く間に何度も『霧野くん』と口にし、それを耳にした浜野が、すごくすごく面白くないと思っていたことに。


「はーやみー。さっきから何一人でブツブツしゃべってんの。霧野となんかあった?」

 これ、浜野としては軽く探りを入れただけのつもりだろうけど、速水にとってはそうはいかなかった。
 突然浜野に話しかけられたうえに、『霧野』というキーワードまで出されてしまったのだ。

「は、は、は浜野くん!?」

「うん?」

「今度の休みに、一緒に絵画展に行って欲しいんですけど!」

「は?」

 言ってから‘お誘い’じゃなくて‘お願い’になっていることに気付いた。
 あまりにも突然だし、浜野からすれば何が何だかわからないに決まっている。

 が、一度言ってしまったことを取り消すこともできない。

 ポカンとした表情の浜野に、不安になる。

「あの・・・やっぱ、ダメですよね・・?」

「ダメなわけないじゃん。ちゅーか、速水から誘ってくれたの、初めてじゃね?」

「え・・・」

「すっげぇ嬉しい!」

「ほ、本当に?」

「ホントに!」

「一緒に行ってくれるんですか?」

「モチロン!」

「絵画展って、絵を見に行くんですよ」

「いいよ。オレ、速水とだったら何でも楽しいし」

「ほ・・・本当に?」

「だからホントだって!」

「ありがとうございます!」





 そしてやっぱり、速水は気付かなかった。

 嬉しそうに笑う速水に手を伸ばしかけ、慌ててそれをひっこめ、ごまかすように笑う浜野に。






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企画第一弾『ポジティブキャンペーン』をお届けします。

ぷりんちゅ』のみに。ちゃんと合同の、「普段ネガティブな速水が、1週間に1度ポジティブになっちゃうぜ!!」という企画です。
つまり、1週間に1作品、速水中心に更新されていく予定です。

第四話です。これでポジティブキャンペーンは終了です
なんか、四話だけちょっと長めになってしまいました、スミマセン
オマケは時間がある時に書きますので、もう少しまってね。
次の企画も頑張るよ!!

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